東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)142号 判決 1991年4月26日
大阪市淀川区西中島五丁目一三番九号
原告
日本製箔 株式会社
右代表者代表取締役
松井元義
右訴訟代理人弁護士
竹内靖雄
右訴訟代理人弁理士
山本孝
東京都千代田区霞が関三丁目四番三号
被告
特許庁長官
植松敏
右指定代理人
市川裕司
同
後藤晴男
同
松木禎夫
同
熊田和生
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 特許庁が、昭和六三年五月一七日、同庁昭和五八年審判第一四六七四号事件についてした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決
二 被告
主文と同旨の判決
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五四年三月二〇日、名称を「ガスコンロ用アルミシート製マツトの構造」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願をしたところ、昭和五八年四月一一日、拒絶査定を受けたので、同年七月一日、拒絶査定に対する審判の請求をした。特許庁は、同請求を昭和五八年審判第一四六七四号事件として審理し、昭和六二年四月二七日、出願公告したが、同年六月二六日、実用新案登録異議申立てがされた。特許庁は、更に審理の上、昭和六三年五月一七日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年六月九日、原告に送達された。
二 本願考案の要旨
二連式ガスコンロを備えたガスレンジにおける各コンロ部の上面部分の広さを有する長方形の平坦部分(1)の中央部にガスパーナーの露出孔(3)を設けると共に該露出孔(3)の外周に樋状の凹部(4)を形成し、この凹部(4)と前記平坦部分(1)の外周部との間の部分に五徳載置用段部(2)を形成し、さらに、前記平坦部分(1)の外周部四辺縁に沿つて折目線(5)を設けると共に該各折目線(5)の外側に適宜幅の延長端辺部(6)(7)を連接し、該各延長端辺部(6)(7)をそれぞれ独立して上方に折り曲げ可能に構成してなるガスコンロ用アルミホイール製マツトの構造。(別紙本願考案図参照)
三 本件審決の理由の要点
1 本願考案の要旨は前記二のとおりと認める。
2 これに対し、当審における実用新案登録異議申立人は、本願考案は、審判甲第一号証(本訴甲第五号証)刊行物実願昭五〇-一〇五六一〇号(実開昭五二-二〇九七一号)のマイクロフイルム(以下「引用例1」という。)及び審判甲第二号証(本訴甲第六号証)刊行物実願昭四七-三九一五四号(実開昭四九-一二七〇号)のマイクロフイルム(以下「引用例2」という。)に基づいて、あるいは審判甲第一号証、審判甲第二号証、審判甲第三号証刊行物実願昭五二-七〇六〇四号(実開昭五三-一六四九七九号)のマイクロフイルム、審判甲第四号証(本訴甲第七号証)刊行物実願昭四七-一一七四五八号(実開昭四九-七四三七九号)のマイクロフイルム(以下「引用例3」という。)に基づいてきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができない旨主張する。
3 そこで、前記主張について検討すると、引用例1(本判決別紙引用例1図参照)には「ガステーブル上面のほぼ全面を覆う大きさのアルミホイール製の平坦部を有する本体中央部に、ガスレンジバーナ出口を設けると共に、そのガスレンジバーナ出口の外周に樋状の汁受部用凹みを形成し、前記平坦部分の外周部四辺縁に沿つて折り曲げ用ミシン目を設けて、その外側に連設された適宜幅の延長端辺部をガステーブル上面の大きさに合せ、それぞれ独立して上方に折り曲げできるようにしたガスレンジマツト。」が記載されており、また、引用例2には「本体の平坦上周縁と、突出内周面と底面及び斜面とによつて形成された煮こぼれ汁受け用凹部との間の部分に、五徳を乗せるための段階を設けたアルミニユーム板からなるガスマツト。」が記載されている。
4 本願考案と引用例1に記載された考案(以下「引用考案」という。)とを対比すると、両者は、ガスレンジにおけるコンロ部の上面部分の広さを有する平坦部分の中央部にガスバーナの露出孔を設けると共に、前記露出孔の外周に樋状の凹部を形成し、さらに、前記平坦部分の外周部四辺縁に沿つて折目線を設けると共に、前記折目線の外側に適宜幅の延長端辺部を連設し、各延長端辺部をそれぞれ独立して上方に折り曲げ可能に構成したガスコンロ用アルミホイール製マツト(引用考案ではアルミホイール製ガスレンジマツト)の構造の点で一致し、次の二点で相違する。
相違点一
本願考案が二連式ガスコンロを備えたガスレンジであるのに対し、引用考案は、二連式ガスコンロについては記載していない点。
相違点二
本願考案が長方形の平坦部分を有するマツトであること、また凹部と平坦部分の外周部(内周部の誤りであると認める。)との間の部分に五徳載置用段部を形成しているのに対し、引用考案は、マツトの平坦部分の長方形である点については記載しておらず、また五徳載置用段部についても記載していない点。
5 そこで、前記相違点一及び二について検討すると、相違点一について
二連式ガスコンロを備えたガスレンジは、引用例を用いるまでもなく本願出願前周知(例えば引用例3)であるので、前記本願考案の相違点のように構成することは、きわめて容易になし得ることである。
相違点二について
煮汁のこぼれによるガスコンロ部の上面部分の汚れを防止するという目的からみて、前記ガスコンロの上面部分の形状及び大きさに応じてマットの形状及び大きさを決定することは常套手段であるから、本願考案のように長方形の平坦部分を有するマツトにすることは当業者のきわめて容易に考えられることである。また、凹部と平坦部分の内周部との間の部分に五徳載置用段部を形成することは、引用例2に記載されているので、これまた当業者のきわめて容易に考えられることである。
なお、請求人(原告)は、引用例1に記載のマツトは外周部に幅調整用のミシン目を設けたもので、このミシン目を本願のような折目線として採用すれば、その目穴から煮汁が漏出してガステーブル面を汚す虞れがある旨主張しているが、本願考案は、ミシン目による折目線を含んだ上位概念による折目線であるし、仮りにミシン目でない折目線であるとしても、牛乳及びジユース等の液状物を入れる折畳式容器において折目線を用いることが本願出願前周知であるから、前記いずれの折目線であつても当業者がきわめて容易に考えられることである。
そして、本願考案の構成全体からもたらされる作用、効果についてみても、前記審判甲各号証に記載された事項及び本願出願前周知の事項から当業者が容易に予測される程度のもので、格別なものは見当たらない。
6 したがつて、本願考案は、前記引用例1及び引用例2に記載された事項並びに本願出願前周知の事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができない。
四 本件審決を取り消すべき事由
本件審決は、引用考案の技術内容の認定を誤り(認定判断の誤り1)、本願考案と引用考案との一致点の認定を誤り(認定判断の誤り2)、相違点の判断を誤つた(認定判断の誤り3)結果、本願考案は引用例に記載された事項並びに周知の事項に基づいて容易に考案をすることができたものであると誤つて判断した(認定判断の誤り4)ものであるから、取り消されるべきである。
1 認定判断の誤り1について
本件審決は、引用例1には、「平坦部の外周部四辺縁に沿つて折り曲げ用ミシン目を設けて、その外側に連設された適宜幅の延長端辺部をガステーブル上面の大きさに合せ、それぞれ独立して上方に折り曲げできるようにしたガスレンジマツト」が記載されている旨認定している(本件審決の理由の要点3)。
しかしながら、引用考案は、大きさの異なるガステーブル上面のほぼ全面をマツトで覆うことにより、吹きこぼれや煮汁によるガステーブル上面の汚損を防止しようとすることを目的とするものであり、右目的を達成するために、大小数種の形状のミシン目を入れるという技術構成をとつた上、右各ミシン目をテーブル上面の各大きさに合わせて、それぞれ適宜切取り、当該テーブル上面の大きさに合わせて、その全面を覆うことによつて、煮汁等によるガステーブル上面の汚損を防止しようとするものである。
そして、引用例におけるミシン目は、それぞれ独立して折り曲げることはできず、ガステーブル上面の大きさに合わせて、切り取るためのものであり、このことは、引用例の明細書の「図面の簡単な説明」の欄において、図面中4および4'はいずれも「グリル付用のミシン目カツト線」
同5、5'、5"も、いずれも「縦巾、横巾調整用のミシン目カツト線」
と明記され、折目線、折り曲げ線等と記載されていない事実からも、右ミシン目が折目線、折り曲げ線ではなく、カツト線、すなわち切取りのためのものであることは明らかである。
したがつて、本件審決は、引用例1のミシン目が、切取りのためのものであるにもかかわらず、折り曲げ用と誤認し、また、ガステーブル上面またはガステーブル上面の開口部の大きさに合わせるために、ミシン目が「大小数種の形状」に入れられなければならないにもかかわらず、単に、平坦部分の外周部四周辺に沿つて(各一本)のミシン目を設け、その外側に連設された適宜幅の延長端辺部(を画する)と誤認し、さらに、右適宜幅の延長端辺部は、それぞれ独立して上方に折り曲げることができないにもかかわらず、可能であると誤認したものである。
2 認定判断の誤り2について
本件審決は、本願考案と引用考案とを対比し、「両者は、ガスレンジにおけるコンロ部の上面部分の広さを有する平坦部分」の中央部にガスバーナーの露出孔を設けている点において一致している旨認定している(本件審決の理由の要点4)。
しかしながら、引用考案においては、ガステーブル上面またはガステーブル上面の開口部の各「大きさに合わせ」て「セツト」されたガスレンジマツトは、「ガステーブル上面のほぼ全面を覆う」ようになすことが重要な技術内容を有するものであり、かつ、ガステーブル上面のほぼ全面を覆うものでなければ、右考案の目的を達成することができないものである。
他方、本願考案は、引用考案のごとく、ガスレンジマツトをガステーブル上面またはガステーブル上面の開口部の各「大きさに合わせ」て、適宜「切取り」、「セツト」するという構成ではなく、二連式ガスコンロを備えたガスレンジにおける各コンロ部の上面部分の広さを有する平坦部分1の中央部にガスバーナーの露出孔3を設けるとともに、該露出孔3の外周に樋状の凹部4を形成したので、多種多様なコンロ部の上面部分を「単一種類の形状でもつて、各種形式のガスコンロ部に適合使用し得る互換性に富んだガスコンロ用マツトを提供するもの」であり(本願出願公告公報(以下「本願明細書」という。)一頁第二欄九行から一二行)、また、本願考案の構成である「各コンロ部の上面部分の広さを有する長方形の平坦部分1……」によつて、引用例のごとく、ガステーブルの上面の大きさに合わせて、切取り、セツトして「ガステーブル上面のほぼ全面を覆うこと」なく、「二連式ガスコンロを備えた標準的なガスレンジにおけるコンロ部の上面部分の広さを有する長方形の平坦部分1……」(同一頁第二欄一二行から一五行)により「……ガスレンジの機種の相違に拘らず大抵のガスコンロ部に適合使用でき、被覆状態が安定すると共に……ガスコンロ部が煮汁によつて汚損されるのを防止することができる」作用効果を有するものである(同二頁第三欄八行から一九行)。
すなわち、本願考案は、引用例の考案のごとく、単にガステーブル上面の大きさに合わせて、適宜切取り、当該ガステーブル上面のほぼ全面を覆つてセツトするという技術構成ではなく、また、各コンロ部の上面部分の平坦部の大きさ、形状に合致することを必須の要件とするものでもなく、マツトの平坦部はコンロ部の上面部分より若干の広狭があつても、標準的なガスレンジにおける各コンロ部の上面部分の広さを以つて充分目的が達成されるものであり、右延長端辺部を、適宜、展開したり、それぞれ独立して折り曲げて使用するという技術的思想に基づいているものである。
したがつて、本願考案のガスコンロ用マツトは、「ガステーブル上面のほぼ全面を覆う」という技術構成ではなく、「ガスレンジにおけるコンロ部の上面部分の広さを有する」構成であり、両者は、技術的内容及び構成において明らかに異なつているものである。
3 認定判断の誤り3について
本件審決は、本願考案と引用考案との相違点二につき、「煮汁のこぼれによるガスコンロ部の上面部分の汚れを防止するという目的からみて、前記ガスコンロの上面部分の形状及び大きさに応じてマツトの形状及び大きさを決定することは常套手段であるから、本願考案のように長方形の平坦部分を有するマツトにすることは当業者のきわめて容易に考えられることである。」旨認定している(本件審決の理由の要点5)。
しかしながら、引用例1ないし3に記載されたマツトは、いずれも目的とするガステーブル上面に適合する大きさ、すなわち、単一コンロ用、二連式コンロ用に完全に区別し、それぞれのコンロ用としてテーブル全面に敷設して使用できるようにすることを意図して構成されたものである。
これに対して、本願考案は、二連式ガスコンロの上面形状に合わせるという、前記従来の考えを排除し、二連式ガスコンロの各コンロ部の広さが単一コンロや二連式コンロの共通した標準的な大きさとなる点に着目し、平坦部分1を各コンロ部の上面部分の広さを有する長方形に形成したものであつて、引用例1ないし3とはその着想点が全く異なるものである。
引用例1に記載のマツトは、右記したように、単一コンロの上面形状に適合する大きさに形成されたものであるが、仮に、このマツトを二連式コンロの各コンロ部に載置した場合、本願考案の平坦部分1に相当する部分は内側のミシン目5、5'、5"で囲まれた略正方形状の部分となり、したがつて、グリル部までも含む大きさとなつて各コンロ部の広さよりも大きくなり、二連式コンロにおける各コンロ部に対する使用が困難となるものである。
本願考案は前記のように、平坦部分1を、「二連式ガスコンロにおける各コンロ部の上面部分の広さを有する長方形状」、すなわち、グリル部を除去したコンロ上面面積のほぼ二分の一の大きさ、形状に形成したことによつて各コンロ部に適合し得るようにしたものであつて、引用例1ないし3に記載されているような、ガスコンロの上面部分の形状及び大きさに応じてマツトの形状及び大きさを決定したものではない。
本願考案は、まず、平坦部分1の大きさ、形状を本願考案の構成要件として記載しているように、「二連式ガスコンロを備えたガスレンジにおける各コンロ部の上面部分の広さを有する長方形状」に形成し、さらに、既に記述した他の技術構成と結合・関連することによつて本願独自の作用効果を奏することができたものであり、ガスコンロに対して一対一の対応性を有するように形成した各引用例とは技術的思想からして根本的に相違しているものである。
4 認定判断の誤り4について
本件審決は、「本願考案は、ミシン目による折目線を含んだ上位概念による折目線であるし、仮にミシン目でない折目線であるとしても、牛乳及びジユース等の液状物を入れる折畳式容器において折目線を用いることが本願出願前周知であるから、前記いずれの折目線であつても当業者がきわめて容易に考えられることである」旨認定している(本件審決の理由5)。
牛乳及びジユース等の液状物を入れる折り畳み式容器において折目線を用いることが本願出願前周知であることは認める。
しかしながら、本件審決のいう右「ミシン目による折目線」、「上位概念による折目線」は、「引用例におけるミシン目」、「本願考案における折目線」という各具体的なそれぞれの考案の目的、技術的思想に基づいて上位概念云々を考察すべきであり、右考案の各具体的構成や目的・作用効果を離れて、一般的抽象的に論じられるべきでないことは縷述するまでもない。
したがつて、本件審決は、引用例1におけるミシン目がカット線であり、本願考案の折目線とは機能的にも全く異質のものであるにもかかわらず、両者を折目線であると誤認し、引用例1におけるミシン目がその目的・構成・作用効果の点から折目線であるという判断を何ら示すことなく、「本願考案は、ミシン目による折目線を含んだ上位概念による折目線である」と認定し、判断を誤つているものである。
また、本願考案における折目線は、既述した目的・構成・作用効果を有するガスレンジマツトにおける折目線であり、牛乳及びジユース等の液状物を入れる折り畳み式容器における折目線とは、技術分野・考案の目的機能などを全く異にしている。
しかるに本件審決は、単に折目線のみをとらえて周知技術である旨認定しており、本件審決の右認定には何らの合理性もないというべきである。
第三 請求の原因に対する認否及び主張
一 請求の原因一ないし三の事実は認め、同四の主張は争う。
二 本件審決の認定判断は正当であり、原告主張の違法はない。
1 認定判断の誤り1について
引用例1における、「グリル付きのガスレンジにおいては、グリル上部付近が熱せられるためにグリル使用中にこの付近のテーブル上面に吹きこぼれたものはすぐにこびりついてしまい具合が悪い。そこで、ガステーブル上面のほぼ全面を覆うことの出来る大型のガスレンジマツトを考案した。アルミホイル製の本体1は従来のものより大型で表面に4、4'、5、5'、5"のごとく大小数種の形状にミシン目が入れてある。」(甲第五号証一頁一六行から二頁四行)との記載からみて、引用例1には、ナベの吹きこぼれ等によるガステーブル上面の汚れを防止することを目的として、従来のものより大型のアルミホイル製のガスレンジマツトの表面に4、4'5、5'、5"のごとく大小数種の形状にミシン目を入れたものが記載されていることが明らかであり、また、同じく「ガステーブル上面の大きさに合せ、5、5'、5"のミシン目でアルミホイルを折曲げるか、または切取る。」(同号証二頁八行から一〇行)との記載により、5、5'、5"のミシン目は、ガステーブル上面の大きさに合せ、折曲げることができるものであることが明らかである。
そして、5、5'、5"の各ミシン目の両端部が交わつて形成されるコーナー部の四辺形部分は、柔軟なアルミホイル製で巾も狭いことから、手で容易に折曲げることができるし、また前記した「ガステーブル上面の大きさに合せ、5、5'、5"のミシン目でアルミホイルを折曲げるか、または切取る。」との記載のとおり、折曲げない部分のミシン目は適宜切取ることができるので、そのようにしてコーナー部の四辺形部分を折曲げるか切取ることにより、ミシン目の外側に連設された延長端辺部は、各ミシン目に沿つて、それぞれ独立して上方にも折り曲げることができるものである。
なお、引用例1の「図面の簡単な説明」の欄に記載された「ミシン目カツト線」は、「4、4、5、5'、5"のごとく大小数種の形状にミシン目が入れてある」(同号証二頁三行から四行)に対応する記載であつて、これらの「ミシン目」は前述したように折り曲げることができるし、「カツト」には「(像、名等を)刻む、彫る」の意味があることからみて、「ミシン目が入れてある(刻み付けてある)線」のように解することができるものである。
それゆえ、原告が主張するように、必ずしもミシン目で切り取るものではなく、ミシン目で折り曲げて使用できるものであり、二筋のミシン目5、5'、5"の少なくとも内側の線はガスレンジマツト本体の平坦部分の外周部四辺縁に沿つてガステーブルの大きさに合わせるように設けられ、前記外周部四辺縁に沿うミシン目の外側に適宜幅の延長端辺部が連設されていることは明らかであるので、本件審決における認定に誤りはない。
2 認定判断の誤り2について
本願考案の「各コンロ部の上面部分」がガスレンジ上面にある点は第3図に示されているが、それがガスレンジ上面のどのような広がりをもつかは不明確であり、「コンロ部の上面部分14が比較的広い場合には該延長端辺部6、7を展開状態のまま使用すれば、上記した平坦部分1によつて被覆され得ない部分をカバーすることができ、」(本願明細書二頁第三欄二二行から第四欄一行)との記載の「比較的広い場合には」からみて、それが一定の広さのものとはいえず、また、「平坦部分1」が「コンロ部の上面部分14」より狭いことも記載されており、必ずしも「平坦部分」が「各コンロ部の上面部分の広さを有する」とはいえないので、結局、本願考案の「各コンロ部の上面部分の広さを有する」は、ガスレンジ上面の、吹きこぼれ等による汚れを防止すべき範囲を漠然と意味するにすぎない。
これに対し、引用例1の「使用法は本体1の中央部にあけられた穴2(3の誤り)をガステーブルのバーナ上部よりくぐらせ、受皿に汁受部3(2の誤り)を合せる。汁受部は受皿の形状と合うようにあらかじめ、丸または四角の凹みがついている。ガステーブル上面の大きさに合せ5、5'、5"のミシン目でアルミホイルを折曲げるか、または切取る。」(甲第五号証二頁四行から一〇行)との記載及び図面の記載によれば、引用例1のガスレンジマツトにおいて5、5'、5"のミシン目で囲まれる平坦部分は、その中央部にガスバーナの露出孔が設けられる点で本願考案と同じであり、また、ガステーブル上面の大きさに合わせることが明らかである。そして、「ガステーブル上面の大きさに合せ」とは、その目的からみて、本願考案の「平坦部分1を2連式ガスコンロ11、12を備えたガスレンジ13の上面部分14の広さに相当する大「きさに形成し」(本願明細書二頁第三欄九行から一二行)の記載と同じく、ガスレンジ上面の吹きこぼれ等による汚れを防止すべき範囲の大きさに合わせる意味であることは自明であり、ガスレンジ上面にグリル部がない場合は、前記平坦部分は、勿論ガスレンジ上面の大きさに合わせて設定されるし、ガスレンジ上面にグリル部がある場合も、それを除いたガスレンジ上面の吹きこぼれ等による汚れを防止すべき範囲の大きさに合わせて設定されることは明らかであるので、本願考案の平坦部分と同じである。そして、延長端辺部を適宜展開したり折り曲げることにより他の広さのコンロ部上面にも適合使用できるという作用、効果も差異はない。
したがつて、本件審決の認定に誤りはない。
3 認定判断の誤り3について
引用例1に記載のマツトの平坦部分の広さが本願考案の平坦部分の広さと相違しない点は、前記2記載のとおりであり、引用例1に記載のマツトの平坦部分の広さが、単一コンロの上面形状のみに適合するだけではなく、二連式コンロの各コンロ部にも適合する広さであることは明白である。すなわち、グリル部がない二連式コンロや、グリル部が前記マツトの5、5'、5"のミシン目で囲まれた平坦部分に重ならない二連式コンロには、当然、4、4'のミシン目で切り取り折り曲げることなく、前記マツトを5、5'、5"のミシン目により延長端辺部を適宜折り曲げることにより、各コンロ部に載置して使用できることは明らかである。
そして、コンロ部の上面部分の煮汁のこぼれ等による汚れを防止するという目的からみて、前記マツトにおける四辺形の平坦部分の上下巾と左右巾を、コンロ部の上面部分の上下巾と左右巾に合わせて長方形に設定することは当業者のきわめて容易に考えられることであり、また、二つのコンロ部の間にグリル部がある二連式コンロにおいて、そのコンロ部の左右巾に合わせて、前記マツトの平坦部分の左右巾を設定すれば、その結果、延長端辺部によりコンロ部とグリル部とを整然と仕切れることは当業者の当然予測できることである。
4 認定判断の誤り4について
引用例1の「ミシン目」が折り曲げ用のものであることは、前記1記載のとおりであつて、両者の目的、構成作用効果に格別な差異はないので、本件審決の認定に誤りはない。
また、牛乳及びジユース等の液状物を入れる折り畳み式容器における折目線と、ガスレンジマツトにおける折目線とは、「牛乳及びジエース等の液状物を入れる折畳式容器」と「ガスレンジマツト」の技術分野は異なるが、両者共に、液状物のための折り畳み式容器の折目線である点共通の目的、機能を有し、前記折目線は技術分野を越えて多くの人によく知られるところの技術であるから、その転用がきわめて容易であるとの本件審決の認定に誤りはない。
第四 証拠
本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
二 認定判断の誤り1について
1 成立に争いのない甲第五号証によれば、引用例1には、次の記載があることが認められる。
(一) 引用考案は、ガステーブル上面のほぼ全面を覆うことが出来る大型のガスレンジマツトに関するものである(甲第五号証明細書一頁七行から九行)。
(二) グリル付のガスレンジにおいては、グリル上部付近が熱せられる為にグリル使用中にこの付近のテーブル上面に吹きこぼれたものはすぐにこびり付いてしまい具合が悪い。そこで、ガステーブル上面のほぼ全面を覆うことのできる大型のガスレンジマツトを考案した。
アルミホイル製の本体1は従来のものより大型で表面に4、4'、5、5'、5"のことく大小数種の形状にミシン目が入れてある。使用法は本体1の中央部にあけられた穴2(3の誤りと認める。)をガステーブルのバーナ上部よりくぐらせ、受皿に汁受部3(2の誤りと認める。)を合せる。汁受部は受皿の形状と合うようあらかじめ、丸または四角の凹みがついている。ガステーブル上面の大きさに合せ、5、5'、5"のミシン目でアルミホィルを折曲げるか、または切取る。グリル付のものは同様にガステーブル上面の開口部の大きさに合せて4、4'のミシン目で切り取り折り曲げて、ガステーブル上面にセツトする。(同一頁一六行から二頁一三行)
(三) 図面(本判決別紙引用例1図)及び図面の簡単な説明
4グリル付用のミシン目カツト線
4'グリル付用のミシン目カツト線
5縦巾、横巾調整用のミシン目カツト線
5'縦巾、横巾調整用のミシン目カツト線
5"縦巾、横巾調整用のミシン目カツト線
(甲第五号証明細書三頁二行から七行)
2 右事実によれば、引用考案は、ナベの吹きこぼれ等によるガステーブル上面の汚れを防止することを目的として、従来のものより大型のアルミホイル製のガスレンジマツトを提供するものであつて、ガスレンジマツトの表面には、4、4'、5、5'、5"のことく大小数種の形状にミシン目が入れてあり、大小二種の形状のミシン目、すなわち、二筋のミシン目5、5'、5"の内側の線又は外側の線で囲まれて形成される四辺縁は、いずれも、平坦部分の外周部四辺縁に相当し、ミシン目の外側は適宜幅の延長端辺部が連設されていることになり、5、5'、5"のミシン目は、ガステーブル上面の大きさに合わせ、切取るものに限らず、折り曲げるものも含むものであると認められる。
そして、5、5'、5"の各ミシン目の両端部が交わつて形成されるコーナー部の四辺形部分は、アルミホイル製で巾も狭いことから、ミシン目及び対角線方向に手で容易に折り曲げることも一部切り取ることもできるので、ミシン目の外側に連設された延長端辺部は、各ミシン目に沿って、それぞれ独立して上方にも折り曲げることができ、また、グリル付テーブルにおいても、グリル開口部の各大きさに合わせるために、適宜切り込みを利用することにより、ミシン目に沿つてそれぞれ独立して上方に折り曲げることができるというべきである。
3 したがつて、本件審決が、引用例1には、「平坦部の外周部四辺縁に沿つて折り曲げ用ミシン目を設けて、その外側に連設された適宜幅の延長端辺部をガステーブル上面の大きさに合せ、それぞれ独立して上方に折り曲げできるようにしたガスレンジマツト」が記載されている旨認定したことに誤りはない。
三 認定判断の誤り2について
1 成立に争いのない甲第四号証、第八号証によれば、本願明細書には、本願考案の目的、構成及び作用効果について次のとおり記載されていることが認められる。
(一) 単一種類の形式でもつて各種形式のガスコンロ部に適合使用し得る互換性に富んだガスコンロ用マツトを提供する(甲第八号証一頁第二欄九行から一一行)
(二) 本願考案の要旨(請求の原因二)記載の構成(別紙本願考案図参照)。
(三) 本願考案におけるガスコンロ用アルミシート製のマツトは、その長方形の平坦部分1を二連式ガスコンロ11、12を備えたガスレンジ13の上面部分14の広さに相当する大きさに形成し……ているからガスレンジの機種の相違に拘らず大抵のガスコンロ部に適合使用でき、被覆状態が安定するとともに従来のこの種マツト同様にガスコンロ部が煮汁によつて汚損されるのを防止することができる。その上更に本願考案においては……コンロ部の上面部分14が比較的広い場合には該延長端辺部6、7を展開状態のまま使用すれば、上記した平坦部分1によつて被覆され得ない部分をカバーすることができ、……中央部分にグリル部17が存在し一方の延長端辺部6が展開状態で使用できない場合には折目線5から該延長端辺部6を折り曲げればグリル部17とコンロ部11または12とを延長端辺部6でもつて体裁よく仕切り状態となすことができ、煮汁による相互の汚損を防止することができる。(甲第八号証二頁第三欄八行から第四欄七行)
(四) 第3図(本判決別紙本願考案図第3図)は使用状態を示した斜視図である(同二頁第四欄二一行から二二行)。
2 右事実によれば、本願考案における「ガスレンジにおけるコンロ部の上面部分の広さを有する平坦部分」については、本願明細書の第3図に本願考案のガスレンジマツトがガスレンジの上面に位置していることが記載されているが、平坦部分がどの程度の広がりをもつかは明らかではなく、本願明細書に「平坦部分1を二連式ガスコンロ11、12を備えたガスレンジ13の上面部分14の広さに相当する大きさに形成し」と記載されていることに照らせば、それが一定の広さをもつものとはいえず、「平坦部分」が「コンロ部の上面部分」に相当する大きさであると解される。
また、本願明細書の「コンロ部の上面都分14が比較的広い場合には該延長端辺部6、7を展開状態のまま使用すれば、上記した平坦部分1によつて被覆され得ない部分をカバーすることができ、」との記載からすれば、コンロ部の上面部分14が比較的広い場合には、本願考案における「平坦部分1」が「コンロ部の上面部分14」より狭い大きさとなり、「コンロ部の上面部分の広さを有する」ことにはならない。
そうすると、本願考案のガスコンロ用マツトの平坦部が「コンロ部の上面都分の広さを有する」ことは、引用例におけるガスコンロ用マツトの平坦部が「ガステーブル上面のほぼ全面を覆う」ことと同一であると認められる。
3 したがつて、本件審決が、本願考案と引用考案とを対比し、「両者は、ガスレンジにおけるコンロ部の上面部分の広さを有する平坦部分」の中央部にガスバーナの露出孔を設けている点において一致している旨認定したことに誤りはない。
四 認定判断の誤り3について
1 前掲甲第五号証、成立に争いのない甲第六、第七号証によれば、引用例3に記載されたものは二連式コンロ用のものであるが、引用考案及び引用例2に記載されたものは、単独で単一コンロ用として使用できるのはもとより、二連式コンロの各コンロにそれぞれ使用することにより二連式コンロ用としても使用できることが認められるから、引用例1ないし3に記載されたマツトが単一コンロ用あるいは二連式コンロ用に完全に区別し、それぞれのコンロ用としてテーブル全面に敷設して使用できるようにすることを意図して構成されたものであるとする原告の主張は理由がない。
2 引用考案のマツトが、単一コンロの上面形状のみに適合するだけではなく、二連式コンロの各コンロ部にも適合するものであることは前記のとおりであり、また、引用例1には、大型ガスレンジマツトとの記載はあるが、その大きさについては何ら記載されていないから、単一コンロあるいは二連式コンロの上面の大きさを考慮して適宜の大きさとすることができるし、また内側のミシン目線を適宜の幅とすることによつてもコンロの上面形状に適合することができるのであるから、引用例1に記載のマツトが二連式コンロにおける各コンロ部に対する使用が困難になる旨の原告の主張は理由がない。
一方、本願考案においては、二連式コンロであつても、ナベのふきこぼれ等によるガステーブル上面の汚れを防止するという目的において引用例と何ら相違しないものであり、マツトにおける四辺形の平坦部分の上下幅と左右幅を、コンロ部の上面部分の前後幅と左右幅に合せて長方形に設定することは当業者のきわめて容易に考えられることであり、本願考案は二連式であるということに基づく格別の構成を規定しているものでもなく、予測を越える作用効果は何ら見いだされない。
3 したがつて、本件審決が、「本願考案のように長方形の平坦部分を有するマツトにすることは当業者のきわめて容易に考えられることである。」と判断したことに誤りはない。
五 認定判断の誤り4について
引用考案の「ミシン目」が折曲げ用のものを包含することは、前記二2で認定説示したとおりであつて、引用考案の折り曲げ用ミシン目の機能と本願考案の折目線の機能とは同質であり、両者の目的、構成及び作用効果に格別の差異は認められない。
また、牛乳及びジユース等の液状物を入れる折り畳み式容器において折目線を用いることが本願出願前周知であることは、原告も認めるところであり、牛乳及びジユース等の液状物を入れる折り畳み式容器における折目線と、ガスレンジマツトにおける折目線とは、「牛乳及びジユース等の液状物を入れる折畳式容器」と「ガスレンジマツト」の技術分野は異なるが、両者ともに、液状物のための折り畳み式容器の折目線である点で共通の目的、機能を有し、右折目線は技術分野を越えて周知の技術であるから、その転用は当業者がきわめて容易に推考できるというべきである。
したがつて、本件審決が、「前記いずれの折目線であつても当業者がきわめて容易に考えられることである。」と判断したことに誤りはない。
六 よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 西田美昭 裁判官 島田清次郎)
別紙 本願考案図
<省略>
別紙 引用例1図
<省略>